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文法の違い

ゲームローカライズにおいて、日本語から英語への翻訳は文法の違いにより、他言語と比べて困難と言われています。日本語は主語を省略することが多く、文の構造は主語-目的語-動詞(SOV)です。一方、英語ではほとんどの場合、主語を省略せず、文の構造は主語-動詞-目的語(SVO)となります。この基本的な語順の違いにより、直訳はしばしば不自然になります。また、日本語の動詞には多くの敬語形があり、これらを英語に翻訳する際には、文脈に応じて適切な表現を見つける必要があります。

 

 

文の構造

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語: 「彼は公園に行きます。」

日本語の基本文構造は「主語-目的語-動詞」(SOV)の順序であり、これは動詞が文の最後に来ることを意味します。例えば、「彼は公園に行きます」という文では、「彼は」が主語、「公園に」が目的語、「行きます」が動詞になります。

 

英語の翻訳例: “He goes to the park.”

英語の基本文構造は「主語-動詞-目的語」(SVO)の順序で、動詞が主語に続き、その後に目的語が来ます。したがって、「He goes to the park」という英文では、「He」が主語、「goes」が動詞、「to the park」が目的語です。

 

 

 

主語の省略

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語の例: 「昨日、図書館に行ったんだ。」

日本語では、話者や聞き手が共有する文脈に基づいて主語が省略されることがよくあります。この文章では、誰が図書館に行ったのかは言及されていませんが、日本語の会話ではこのような省略が一般的であり、話の流れや以前の文脈から誰のことか理解されます。

 

英語の翻訳例: “Yesterday, (I/She/He) went to the library.”

英語では文の主語をはっきりと示すことが文法的に必須です。同じ情報を英語に翻訳する際、(I/She/He) のように、省略されている主語を明確にする必要があります。ここで、翻訳者は前後の会話や文脈、関係者の知識を駆使して、省略された主語が「I」(私)、「She」(彼女)、「He」(彼)のどれであるかを判断し、適切な主語を補いながら翻訳を行います。

 

 

 

表現・ニュアンスの違い

ゲームローカライズにおける日本語から英語への翻訳は、表現やニュアンスの違いが大きな障壁となります。日本語には独特の擬音語や擬態語が豊富にあり、これらは特定の音や感覚を直接的に表現します。英語にはこれらに完全に対応する表現が少なく、同じ意味や感覚を伝えるためには、より説明的な言い回しや異なる表現方法を探さなければなりません。文化的背景や伝統が言葉に込められた意味に影響を与えることもあり、これらの要素を翻訳する際には、単に言葉を変換するだけでなく、その背後にある文化的ニュアンスや感情を伝える工夫が求められます。これらの理由から、ゲームのローカライズでは、言葉だけでなく文化や感情を橋渡しする繊細な作業が必要とされるのです。

 

 

主題提示の簡潔な表現

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語の例「桜が満開の下、彼は彼女に真心を告げた。」

主題提示は日本文学の特徴的な手法で、物語の冒頭に核心やテーマを示唆する簡潔な文を置くことです。「吾輩は猫である。名前はまだない。」という有名な書き出しは、この手法を用いて物語の主人公とテーマを効果的に提示し、読者の興味を引きつける典型例と言えます。この例文では、日本文化における桜の象徴性と、それが特定の情感的な表現とどのように結びついているかを示しています。桜が満開であることは、美しさ、儚さ、そして別れなど人生の移ろいを象徴しており、この瞬間が非常に特別であることを強調しています。

 

英語の翻訳例: “Under the fully bloomed cherry blossoms, he confessed his true feelings to her.”

この英語訳では、桜の満開の下での告白というシーンに日本の桜が持つ豊かな文化的ニュアンスを伝えようと試みています。しかし、桜の象徴する情感的・文化的ニュアンスを英語圏のユーザーに完全に伝えることは難しいかもしれません。桜は日本人にとって美しさの象徴でありながら、同時に儚さや別れの季節という情景を想起させる季語でもあります。この繊細な意味を持つ背景は、単に自然の美しさとしての桜を想像する英語話者には、その全貌を伝えにくいものです。

 

 

 

条件文の複雑さ

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語の例: 「もし彼が来なかったら、私たちは家にいるだろう。」

日本語の条件文は「たら」、「ば」、「なら」など、条件の種類や確実性の度合いに応じて複数の表現を使い分けます。この細やかな違いは英語には単語での直接的な対応がなく、翻訳者は文脈や意図されたニュアンスを正確に捉え、適切な英語表現を選択する必要があります。

 

英語の翻訳例: “If he doesn’t come, we will probably stay at home.”

この英訳では「たら」の条件を「if」で表現しましたが、日本語の「たら」が持つ推量のニュアンスを完全に再現することは難しいです。例えば「行けたら行く。」という表現は、可能性と礼儀を含む日本の文化的なニュアンスを持ちますが、その含みや丁寧な断りの意味を英語で完全に表現することはできません。この短い文の背景にある意図や、文化的ニュアンスを英語で表現するには、追加の文脈や説明(注釈)が必要になります。

 

 

補足ですが、行けなくなった場合に申し訳ないと感じる日本の文化に合わせて「多分行くよ(行けたら行くね)」という表現に”Maybe I’ll go.”と、曖昧な回答をする日本の方が多いと言われています。しかし、こういったシチュエーションでの英会話では「多分」の表現に”Maybe”を用いることは基本的にNG。英語話者には「自分のことなのになぜ分からないのか!」と怒らせてしまう可能性もあります。なぜなら、”Maybe”には「自分がコントロールできないことを推測する」といったニュアンスがあり、会話の中で使うと「自分の意思がない」と受け取られてしまうためです。英語では自分の意見をしっかり伝える方が印象がいいので、行くなら「行く」、行かないなら「行かない」と伝えることも大事です。

 

 

 

擬音語・擬態語

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語の例: 「雨がパラパラ降っている。」

擬音語と擬態語は、特に日本語において、環境の音や物事の様子を表現するために豊富に用いられる独特の言語表現です。これらは聞こえる音(擬音語)や物事の見た目や感じられる状態(擬態語)を直接的に模倣する言葉で、日本語の文学や日常会話に深く根ざしています。

 

英語の翻訳例: “It’s drizzling.”

一般的には上記のように翻訳されます。しかし、英語にもパラパラと雨が降る様子の擬音語は存在しており、英語で表現する際には「It’s raining “pitter-patter”.」という表現が適切になります。この表現は、雨の軽やかでリズミカルな音を視覚的にも聴覚的にも想像させ、日本語の擬音語「パラパラ」と同様に、雨の降り方の特徴を伝えることができます。このように、擬音語や擬態語の表現が日本語ほど豊富ではありませんが、似たような語句が存在します。感覚的な響きやニュアンスを英語読者に伝えるためには、翻訳者の創造性とネイティブ話者の感覚、それらを活かすための語彙が必要とされます。これは、機械翻訳では捉えきれない、ネイティブ翻訳者ならではのローカライズとも言えます。

 

 

文化の違い

ゲームローカライズにおいて、日本語から英語への翻訳が難しい主な原因の一つは、文化的な違いにあります。日本と英語圏とでは、価値観、習慣、伝統、そしてタブーが異なり、これらの違いはゲームの設定、キャラクターの行動、対話などに深く影響します。例えば、日本のゲームにおける礼儀正しさや遠慮が重んじられる表現は、英語圏のプレイヤーにとっては過度に控えめであったり、意図が明確でないと感じられることがあります。また、特定の文化的要素やジョークが、異文化のコンテキストでは理解されにくい、あるいは誤解を招く可能性があるため、ローカライズプロセスにおいては、これらの要素をどのように適応させるかが大きな課題となります。したがって、単に言葉を翻訳するだけでなく、文化的な違いを橋渡しし、異文化間で共感を生み出すことが、ゲームローカライズの難しさの一因となっています。

 

文化的背景

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

日本語の例: 「お疲れ様です。」

「お疲れ様です」は日本の職場や社会生活で広く使われる表現です。挨拶や、仕事終わり、ビジネスメールの書き出し、電話口、他人の努力を認める際に用います。しかし、英語圏ではこのような様々な状況下で使える語句が存在しないため、”Thank you for your hard work.”と直訳で表現すると、ニュアンスが失われてしまいます。

 

英語の翻訳例:  “Hello.” “Have a good night.” “Hope you are doing well.” “You’ve got to be tired.” “Good luck on your new journey.”

言葉本体の意味である何かを成し遂げた時の「お疲れ様です。」だと、”You did it.” “Good job.”のような表現が使えます。しかし、目上の人が部下に健闘をたたえる言葉なので、先輩や上司相手には使いません。同僚であれば、”Well done!”と表現される場合も多いです。上記翻訳例のように「お疲れ様です。」には文脈や背景によって色々な意味があるため、それぞれのシーンにあった文章を変更する必要があります。これらも機械翻訳では捉えきれない、ネイティブ翻訳者ならではのローカライズとも言えます。

 

 

時代の変化

ゲームローカライズの苦悩と日英翻訳の難しさ

ゲームローカライズの難しさは、時代による情報の普及度が大きく関わっています。インターネットが普及する前は、海外では「たこ焼き」などの日本独特の文化や食べ物があまり知られておらず、”Octopus dumplings”といった直訳が必要でした。しかし、インターネットのおかげで日本の文化や言葉が世界に広がり、”Takoyaki”のような単語が国際的に理解されるようになりました。この変化は、ローカライズにおいても原語をそのまま使うことが受け入れられるようにし、翻訳は言語だけでなく、受け手の文化的背景にも配慮する必要が出てきました。しかし、これが原因で「日本の文化をわざわざ翻訳しないで」という要望や、過剰な翻訳を”Bad Localization”と批判する声が上がるようになりました。つまり、ローカライズは時代と共に変わる受け手の期待や文化的背景を理解し、適応していく必要がある複雑な作業なのです。

 

 

(社内インタビュー)日→英ゲームローカライズ担当

ーーQ

実際にゲームをローカライズをする上で何に一番苦労しますか?

 

ーーA

一番は外来語や借用語です。英単語だと思われることも多いですが、ヨーロッパ言語の単語も含まれるため、それらの知識も必要になります。例えば、パン(フランス語: Le pain)、アルバイト(ドイツ語: Arbeit)など。

 

ーーQ

ゲームをローカライズをする上で一番難しいことはなんですか?

 

ーーA

似たような回答になりますが、和製英語です。英語に訳した時に意味やニュアンスが違うことがありますが、それらのニュアンスの違いをうまく説明するのが難しいです。

 

例えば『スキンヘッド』

He was a skinhead. ×
He was bald. 〇

スキンヘッドをそのまま英語で使用すると、パンクバンドメンバーや不良ようなイメージを彷彿させるので少しニュアンスが違います。

 

あとは『マニキュア』

She has over 10 manicures. ×
She has over 10 bottles of nail polish. 〇

マニキュアの英語での意味は、美容治療全般を指しているため意味がかなり変わってしまいます。

 

そして『SNS』

Social Networking Service/Site

厳密には間違いではないですが、英語圏では略称が使用されていないため、通じない可能性がとても高いです。

 

その他にも、日本語の意味する『Home Page』は『website』が一般的に使用されていたり、和製英語は言葉通りに使うと読者を混乱させたり、製品やサービスに悪い印象を与えたりする可能性があります。そしてこれらは、機械翻訳だと拾えないことがある内容のため、ネイティブチェックは必ず実施した方がいいと思います。

 

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